瀬戸内ワイナリー紀行


winebuffです。最近は、世の中もだいぶ落ち着きを取り戻してまいりましたが、皆さまお変わりないでしょうか。今回は、初めて広島、愛媛のワイナリーに行ってきました。瀬戸内海のしまなみ海道を通ってシーサイドドライブを楽しみながら、付近のワイナリーにも訪れるというなかなか魅力的な旅行です。皆さまご存知の通り、瀬戸内地域は、あまりワイナリーは多く無く今まで訪問する事はありませんでした。海沿いの土地だとお世辞にも葡萄の育成に適しているとは言えませんし、そもそも海と山に囲まれ耕作地が十分確保出来ないと思われます。とは言え、昨今のワイナリーブームでこの辺りにも新しいワイナリーがいくつも出来てきたようです。今回お邪魔した二箇所のワイナリーもどちらも新進気鋭?のワイナリーです。それでは、早速、レンタカーを借りて出発です。

広島空港から車で30分ほど離れた海沿いの町にやってきました。ここは風光明美な三原瀬戸を目前に臨む広島県三原市須波西地区で、ワイナリーは元々は造船所だったところを再開発したそうです。日本全国のワイナリーを巡ると、長閑な雰囲気の昔ながらの工場みたいなところもよく拝見するのですが、ここは建物のデザイン一つとってもかなり「攻めて」いるクール系?ワイナリーです。

入り口からすぐ脇に「器と陶芸教室」の建物があり、ここがワイナリーかと一瞬間違えそうになりますが、そのままやり過ごして進むと瀬戸内醸造所の建物が見えてきます。この辺は、雑草の生えかけたアスファルトが剥き出しの空き地でやや寂しさを感じます。

左手の醸造所の施設と右手のショップ&レストランの建物を繋ぐ中央に入り口があります。このご時世なので、新型コロナ感染症予防の為の立て札が立っています。レストラン利用者とワイン購入者以外は立ち入り禁止との物々しい文言にも負けず、先ずはショップに入ります。

近くで拝見すると、この建物のこだわり方がよく分かります。某有名建築事務所のデザインで、外壁は瀬戸内の島嶼部などで使われる焼杉が使われているそうです。そのこだわりは、建物のデザインに止まらず、内装はもちろんレストランで供する器の一つにまで細部に及んでいます。

まずは(というか、開いている入り口がここしかなかったので)、右手のショップ&レストラン棟に向かいます。このレストラン「mio(澪)」は、水面を船が走る航跡という意味から名付けられたそうです。もちろん瀬戸内醸造所のワインに合うフードを提供する意味合いが大きいのですが、ワインと同様、瀬戸内という地域を味覚で体験というコンセプトで料理も考えられているようです。東京の某有名シェフが料理を監修し、ひろしまシェフ・コンクールの成績優秀者のシェフが調理するという気合の入りようです。

入り口付近に立て看板が置かれています。本日のランチメニューでしょうか。最初、このレストランでランチを取ろうかと考えていたのですが、事前予約が必要な時間制のコース料理のみで時間も掛かるし、せっかくワインとのペアリング前提の料理なのに車移動なのでワインも飲めないとあって断念。今回は、ショップでワインを調達するのみと考えていました。予約無しでOKのティタイムに供されるかき氷やパフェなんかも美味しそうでしたが・・・。

建物に入ってすぐ右手にショップがあり、瀬戸内醸造所の各種ワインが陳列されています。白・赤ワインにスパークリング、それからシードルも。少し意外だったのは、シードルに結構力を入れられていた事です。リンゴのお酒ですが、リンゴと言えば青森や長野、山形といった寒い地域が思い浮かびます。(長野や山形はワインの4大名産地でもあります)。失礼ですが、広島もリンゴ取れたんだというのが最初の感想だったのですが、生産量等では全国10数位程度で結構取れるんですね。陳列されていたシードルは、広島県庄原市高野町産、同東城町産、そして山口県山口市阿東徳佐産のリンゴで作られており、それぞれの名前を冠していました。

奥の方には、レストランがあり、姿はよく見えませんでしたが、雑談するお客さん方の声が聞こえてました。カウンターのブルー塗装は海をイメージしているのでしょうか、平日という事もあり店内は閑散としていましたが、シンプルだけど木の温もりも感じられるセンスの良い内装に感心しました。このレストランで面白かったのは、コース料理の締めで自家製手打ち麺が出るそうで、毎日ここのキッチンで岡山県産の石臼で引かれた小麦を使って手打ちしているそうです。ああ、食べたかったなあ・・・。

レストラン入り口左手には、試験管の様な細い花瓶に植えられた一輪挿しがセンス良く並び、後方の海が借景になって雰囲気を醸し出しています。こういう小物ひとつ取ってもセンスの良さが伺えますね。winebuff的には、若干スノッブで敷居が高く感じられるところもあるのですが、地方でこんなお洒落なお店に出会えるとは(失礼な!)やはり旅は新しい発見が沢山あって楽しいですね。

そんな事を考えながら店内をブラブラしていたところ、お店の方から「ワインお好きなんですか?」と声を掛けられました。ええ、好きですとも、大好きでございます。スタッフの方は、それからしばらくwinebuffの自慢話を聞いてくださっていたのですが、おもむろに「それでは醸造所をご案内しましょうか?」とのありがたいお言葉を頂きました。もちろん快諾。早速、反対側の醸造所の建物に案内して頂きました。

案内は、ショップスタッフさんではなく、醸造責任者の行安さんに行って頂きました。行安さんは、元々世羅ワイナリーの醸造責任者を勤められた方で経験豊富な方です。なぜ瀬戸内醸造所に?という問いには、新しい挑戦が出来るのが魅力とお答え頂きました。実際、小規模のワイナリーなので行安さんが基本的に一人で醸造所をマネージされているようでした。

年間1.5万本の小規模ワイナリーの醸造所は、かなりコンパクトにまとまっています。瀬戸内の葡萄だけでなく、中国地方の葡萄なども使用されているようです。地元の葡萄に拘っているのではなく、良い素材を使って良いワインを作りたいというシンプルな考えは、winebuff的にも好意が持てます。今は、契約農家さんからの調達のようですが、地元三原市に自社畑も開拓中とのことで、三年後の収穫を目指して奮闘されているとか。

タンクに氷が張っていますが、これは酒石酸を出さないように冷やしているのだそうです。因みに、今年の葡萄は、雨が多くてかなり厳しい出来とのこと。ラインナップは、赤が多いのですが、今年は土地の食材に合うライトテイストな作りを目指すと仰っていました。既にスパークリングワインも作られていて、定期的にボトルを回すための「ピュピトル」と呼ばれる木製の装置が設置されていましたが、今後はオレンジワインにも挑戦したいとも。なかなかチャレンジャブルな方でした。

説明して頂いた後、ショップで今晩の晩酌用ワインにと「三原ニューベリーA」を一本調達。ニューベリーAは、生食用とし優れた品質を持つ種無ぶどうで地元では「佛通寺ブドウ」として有名なのだそうです。そのぶどうを使用して瓶内二次発酵によるライトテイストな発泡ワインが出来上がりました。

ワインダイアリーのテイスティングメモ

まだ少し時間があったので建物の庭側に出てみました。造船所跡地ということなので、まだ船台や桟橋の様なものが残っています。さすがに風光明媚と謳われるだけあって島の点在する海面は鏡の様に凪いで、まるで風景画の様相を呈していました。

海側から振り返ってみると、ゴツゴツと剥き出しの岩が雑草が目立ちます。ここでバーベキューもできる様ですが、当然この辺も今後開発されるのでしょう。細かい部分にも妥協をせず理想のワイナリー、ワイン作りに邁進する新進の瀬戸内醸造所さんには期待しかありません。今後も注目のワイナリーのひとつです。

さて、瀬戸内醸造所を後にしたwinebuff一行ですが、次のワイナリーに向かう前に腹ごしらえが必要です。せっかく広島に来たのだから地場の美味しいお店に行きたいと思うのですが・・・。

そこで、やってきたのが尾道の「ジョンバーガー&カフェ」。三原から尾道まで足を伸ばしましたが、これはしまなみ海道を通る必要があった為で、付近に駐車スペースのあるお店をと考えて駐車場完備とあったここにしました。木製の大きな本棚とステージを備えた木の温もりある店内で、注文後に作るハンバーガーやsandwichが人気です。音楽好きのマスターが落ち着いた所作のナイスシルバー?で、おもてなしもグッドでした。早速、ハンバーガーを注文。注文後に作り始めるとのことでしたので、こじんまりとした綺麗なお庭を眺めながら待つこと暫し10分程度。

やってきたのが巨大バーガー、というほどでもなく想像よりも小ぶりのハンバーガー。でもそのまま食べると口が裂けそうになるので、ナイフとフォークで切りながら頂きました。東京でもハンバーガーの名店がいくつもあるのでさほど感動はありませんでしたが、雰囲気の良いお店プラス旅の高揚感で満足して食べられました。

さあ、お腹も満たして元気も回復しました。ここからは車でしまなみ海道を渡って行きます。残念なことにかなり時間が押していたので、展望台等で風景写真を撮る暇もなく、文字での説明になりますが、島から島へ大きな橋を伝って進んでいきます。本来のしまなみ海道は、広島と四国の愛媛県を繋ぐ有料道路なのですが、我々は、途中から本道を外れて呉方面に向かいます。何故なら目指す二軒目のワイナリーが瀬戸内海の大三島にあるからです。

まず尾道大橋を渡って向島に向かい、因島大橋を渡って因島に。さらに生口橋を渡って生口島を横断し、多々羅大橋を通過すると目当ての大三島に到着です。本来ならここから大三島橋を通って伯方島に上陸し、伯方・大島大橋を超えて村上水軍で有名な大島を経由し最終的に四国に到達しますが、我々はここで海道を外れました。長閑な島をドライブしやってきたこの「大三島みんなの家」は、大山祇神社参道に建つ元法務局を改修した建物だそうで、かなり年季が入っています。winebuffの子供の頃にはこんな家ばかりだったのですが、都心ではもう見ることも難しい昔ながらの木造建築です。

運良くお店が開いていましたね。それでは、お邪魔してみましょう。ここ大三島でも他の地方同様、過疎化の問題等で町の活性化が重要課題となっており、様々な取り組みがなされています。なかでも「大三島プロジェクト」と題した各種の取り組みは、大手メディアでも取り上げられ有名になりました。廃校になった小学校をリノベートしてホテルにしたり、建築ミュージアムを建てたりするプロジェクトに加え、放棄されたみかん畑を再生しワイン用のぶどう畑として六次産業の一助とするというプロジェクトも進行中です。

建物内は、法務局当時のものをできるだけ活かした作りになっているため、winebuffにとっては懐かしい感じです。入り口すぐのカウンターは、お役所っぽいいかめしい雰囲気ですが、右手のオフィススペースでは、数人のスタッフ?の方がオープンにわいわい熱く語り合っていらっしゃいました。接客して頂いたスタッフの方は東京からの移住者らしく、地元の人以外にも多くのUターンや移住者の方が集ってこの島の未来を作ろうと頑張っていらっしゃいます。

因みにここは愛媛県ですので、全国的にもみかんの名産地として有名です。大三島でもあちこちにみかん畑があって良質のみかんが採れるようですね。

瀬戸内醸造所では、三種類の産地のリンゴのシードルが販売されていましたが、こちらは三種類のみかんワイン、ネーブルスパークリングが売られていました。一見ジュースの様にも見えますが、皮ごと搾った果汁を発酵し瓶内二次発酵で仕上げたアルコール度数6.0〜6.5%の立派なお酒ですのでお間違えなきよう。

そのほか、野菜のピクルスやカシューナッツ、大三島に関連の深い書籍なども陳列されていました。

そして肝心のワインですが、こちらも主力はベーリーA。年間を通して降雨量が少なく、夏季に晴天が続く少雨の瀬戸内気候は山梨の勝沼と非常に似ているそうで、ぶどうの成長にとって最高の条件です。写真の「島紅」は、もちろん大三島の畑で育った葡萄から作られた大三島ワインでマスカット・ベーリーA100%の樽熟成です。 

ワインダイアリーのテイスティングメモ

「大三島みんなの家」プロジェクトには、建築事務所の方々が携わっているようで、とてもセンスが良いです。無理に背伸びせずその土地柄に合わせたデザインを少し洗練させた様な、肩にあまり力の入っていない穏やかさが好感が持てました。東京とは時間の流れの早さが全然違う印象で、こんなところでのんびりと暮らしてみたいと思いました。(実際は、土地の方々は大変なご苦労もされていらっしゃるのでしょうが・・・。)睡眠時間を削って生きているwinebuffの切実な思いです。はい、私事で申し訳ありませんでした・・・。

本当に時間が無かったので、(winebuff娘が久々にゴネる展開もあり)、話もそこそこに車を飛ばしてフェリーの港まで。途中道を間違えると言う致命的なアクシデントも発生したのですがなんとか船の時間に間に合いました。遅れると2時間以上船が無いので久々に必死の走りでした。そしてフェリーで大三島を後にすると、またまた島を伝って無事広島へと戻って行きました。

おまけ:ホテルへ向かう最中、呉市に立ち寄りwinebuffが行きたかった海上自衛隊呉史料館、通称「てつのくじら館」にも行きました。本物の潜水艦(退役してますが)に入れるのは日本でここだけとあって以前から行きたかった場所です。(winebuffは昔ミリオタだったもので。)日もとっぷり暮れ暗くなってからようやくホテルへ到着し長い一日が終わりました。

今回の瀬戸内のワイナリー紀行は、時間の都合もあり二軒だけでしたが、とても印象深いものでした。瀬戸内醸造所と大三島みんなのワイナリーは、どちらも若い新進のワイナリーなのですが、コンセプトはかなり違うように感じました。地場の葡萄にあまり拘らず、既存の概念の囚われず新しい物を生み出すクール系の瀬戸内醸造所と、大三島の活性化が第一の目的で地場の畑や葡萄を活用する、地元の人との交流・協力を重視するほっこり系?の大三島みんなのワイナリー。でもどちらもワインにかける熱量がとても多く若い方々が生き生きとして取り組んでおられました。これからもどちらのワイナリーも応援したいと思ったwinebuffでした。

[winebuff]


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